第7回部会レポート

今回は、前回示された「部会報告に向けての公益委員案骨子」に、労使の意見を踏まえて作成した以下の「部会報告案」が示され、議論が交わされた。なお、公益・柴田委員は欠席。

部会報告案

派遣労働者をめぐる雇用環境等の変化を踏まえた厚生労働大臣からの諮問を受け、当部会においては、政府として諮問内容が緊急課題であり、次期通常国会に労働者派遣法改正法案を提出することが必要であるという事情も踏まえつつ、限られた時間の中で計○回にわたり精力的な審議を行ってきた。
当部会としては、労働者派遣制度は、労働力の需給調整を図るための制度として、我が国の労働市場において一定の役割を果たしているという基本的な認識は変わらないが、その時々の派遣労働者をめぐる雇用環境の変化に応じて、制度の見直しを行うことは必要であると考えている。
そこで、昨今の労働者派遣制度を取り巻く現状をみるに、昨年来、我が国の雇用情勢が急激に悪化して、いわゆる「派遣切り」が多く発生しており、その中で、登録型派遣については、派遣元における雇用が不安定であり問題であるという指摘があったところである。また、特に製造業務派遣については、製造業が我が国の基幹産業であり、技能を継承していくためにも労働者が安定的に雇用されることが重要であると考えられるところ、昨年来のいわゆる「派遣切り」の場面においては派遣労働者の雇用の安定が図られず、製造業の技能の継承の観点からも問題であるとの指摘があったところである。
一方で、労働者派遣で働きたいという労働者のニーズが存在し、企業においても、グローバル競争が激化する中で、労働者派遣は必要不可欠な制度となっており、特に中小企業において労働者派遣による人材確保が一定の役割を果たしているという指摘があったところである。 こうした指摘も踏まえつつ、当部会としては、労働者派遣法について必要な改正を行うことが適当との結論に達したので、下記のとおり報告する。


Ⅰ.労働者派遣法の改正法案に盛り込むべき事項
政府が次期通常国会に労働者派遣法の改正法案を提出するに当たっては、昨年11月に第170回臨時国会に提出した法案(以下「20年法案」という。)の内容に、下記の各事項に示した内容を追加・変更した内容の法案とすることが適当である。
1 登録型派遣の原則禁止
(1)派遣労働者の雇用の安定を図るため、常用雇用以外の労働者派遣を禁止することが適当である。
(2)ただし、雇用の安定等の観点から問題が少ない以下のものについては、禁止の例外とすることが適当である。
①専門26業務
②産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣
③高齢者派遣
④紹介予定派遣
2 製造業務派遣の原則禁止
(1)昨年来、問題が多く発生した製造業務への労働者派遣については、これを禁止することが適当である。
(2)ただし、雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については、禁止の例外とすることが適当である。
3 日雇派遣の原則禁止
(1)雇用管理に欠ける形態である日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者については、労働者派遣を禁止することが適当である。
(2)この場合、20年法案と同様に、日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリズト化して認めることが適当である。
(3)なお、雇用期間のみなし規定(2か月十1日)については、就業日など、みなされた労働契約の内容が不明確である等の問題があることから、設けないこととすることが適当である。
4 均衡待遇
○派遣労働者の賃金等の待遇の確保を図るため、派遣元は、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するものとする旨の規定を設けることが適当である。
5 マージン率の情報公開
○20年法案にあるマージン率等の情報公開に加え、派遣労働者が自己の労働条件を適切に把握するとともに、良質な派遣元事業主を選択する一助とするため、派遣元は、派遣労働者の雇入れ、派遣開始及び派遣料金改定の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示しなければならないこととすることが適当である。
6 違法派遣の場合における直接雇用の促進
(1)違法派遣の場合、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるよう、派遣先が、以下の違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当である。
①禁止業務への派遣受入れ
②無許可・無届けの派遣元からの派遣受入れ
③派遣制限を超えての派遣受入れ
④いわゆる偽装請負(労働者派遣法の義務を免れることを目的として、労働者派遣契約を締結せずに派遣労働者を受け入れること)の場合
⑤1(登録型派遣の原則禁止)に違反して、常用雇用する労働者でない者を派遣労働者として受入れ
(2)(1)の規定の履行確保のため、通常の民事訴訟等に加え、(1)によりみなされない労働契約の申込みを派遣労働者が受諾したにもかかわらず、当該派遣労働者を就労させない派遣先に対する行政の勧告制度も設けることが適当である。
7 法律の名称・目的の変更
○法律の名称及び目的において「派遣労働者の保護」を明記することが適当である。
8 施行期日
○施行期日については、法改正の公布の日から6カ月以内の制令で定める日とすることが適当である。ただし、1(登録型派遣の原則禁止)及び2(製造業務派遣の原則禁止)については、改正法の公布の日から3年以内の政令で定める日とすることが適当である。
9 暫定措置等
(1)1(登録型派遣の原則禁止)に関しては、禁止にあたって派遣労働者等に与える影響が大きいため、その施行は段階的に行うべきであると考えられることから暫定措置として1(登録型派遣の原則禁止)の施行日から2年後までの間、比較的問題が少なく労働者のニーズもある業務への労働者派遣(具体的には政令で定めることとし、その内容については労働政策審議会で審議の上、決定)については、適用を猶予することが適当である。
(2)派遣元及び派遣先は、労働者派遣契約の解除に当たって、民法の規定による賠償等派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずるものとすることが適当である。
(3)政府は、労働者派遣事業の禁止に伴い、派遣就業ができなくなる派遣労働者の雇用の安定や企業の人材確保を支援するため、公共職業安定所又は職業紹介事業者の行う職業初回の充実等必要な措置を講ずるよう努めるものとすることが適当である。

Ⅱ.その他の検討項目について
1 派遣先責任の強化や派遣先・派遣先労働組合への通知事項の拡大など、上記?に掲げた事項以外については、更に検討すべき問題も多数見られることから、今回の法案では措置せず、当部会において引き続き検討することが適当である。
その際、労働は派遣事業の許可・届出の在り方についても、併せて当部会において検討することが適当である。
2 また、上記?に掲げた事項についても、改正法案の施行後一定期間経過後に施行の状況を見ながら検討を行い、必要に応じて見直しを行うこととすることが適当である。

公益・清家部会長 使用者側から施行期日は3年にとらわれずに議論をしてほしいとの意見があった。派遣切りがあったものは早急に対処すべきと考えるが、比較的問題も少なく主婦など家庭責任を有する労働者のニーズのある業務などは適用を猶予することが適当と考えた。派遣切りを行った企業へのルールを明確にするために派遣先に対する損害賠償について、現在は剣先指針から法律に格上げした。
公益・鎌田委員 派遣先が違法を知りながら派遣労働者を受入れた場合、派遣元と同様の契約を申し込んだとみなす制度を創設した。ただし、派遣先が行ったとみなされる労働契約は一定期間撤回はできず、また一定期間経過後は申込み効果はなくなる仕組みとした。
使用者側・秋山委員 今回、報告案をまとめていただいたことに感謝する。女性や中小企業への配慮はありがたい。ただ、中小企業にとって、必要なときに必要な人材を確保することができなくなるのは困る。製造業はここ4~5年で急激に変化しており、禁止されると中小企業は経営が困難になる。登録型派遣が認められる②産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣、③高齢者派遣、④紹介予定派遣、の例外は製造業でも認めてほしい。職業紹介で日雇い派遣に対応できるというがやってみないとわからず、影響を受けるのは中小企業だ。
使用者側・市川委員 基本的には、今の秋山委員の意見に賛成だ。登録型の例外のうち②産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣は、正社員のライフワークバランスに役立つ。一方、派遣労働者のワークライフバランスを考えるべきだ。派遣で短期間の勤務が実現し、主婦や学生の仕事にアクセスしやすくなる。あるいは、短期で働いて海外旅行をしようという人もいる。
製造業でも②産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣、③高齢者派遣、④紹介予定派遣、を認めてほしい。台湾では日本の企業をリタイヤした人を受け入れて技術指導をしている。大企業を退職した人を中小企業で受け入れることで同様の技能継承ができる。④は正社員化に直結する。
製造業が「十把一絡げ」にされている。派遣切りが出発点であるなら、日本産業分類でみて、どの業務に問題があったのかを分析すべきだ。 再三言っているが、禁止は副作用の強い劇薬だ。慎重に対処してほしい。施行期日については、主張を認めていただき感謝している。しかし、もう少し中小企業に対する配慮がほしい。
使用者側・高橋委員 本日の日経新聞の社説で、現在の派遣法改正の方向は派遣労働者の保護に逆行すると指摘されている。やはり、原則禁止には違和感がある。登録型の原則禁止は認めがたい。暫定措置を盛り込んでいただいたが、景気の回復には時間がかかる。今から2年を区切るのではなく「当分の間」とするなど、柔軟に対応してほしい。
製造業務についても②産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣、③高齢者派遣、④紹介予定派遣、を認めてほしい。 みなし規定については、前回採用の自由に反するのではないかと指摘した。わが国では政策目的が明確な障害者や女性で一部採用の自由を制限してきたが、違法に対して採用の自由を制限することに違和感がある。違法派遣が派遣先に問題があることはわかるが、採用の自由を侵害することなく違法をただすことはできる。例えば、企業名公表や罰則の強化だ。その上で、新たな派遣先の確保を派遣元に義務付けることで対応できる。なぜみなしなのか説明してほしい。もし、仮にみなしを認めるのであれば、違法の程度は限定してほしい。要件の明確化が必要だ。
厚生労働書・鈴木課長 これまで派遣労働者は違法を指摘すると職場を失ってきた。違法派遣の解消には雇用の安定が必要だ。慣れ親しんだ職場は派遣先だ。派遣元で雇用することも考えられるが、同じ派遣先で働き続けたいという派遣労働者は多い。対応するためには、派遣法を整備するしかない。
労働側・長谷川委員 労働側は99年、03年から派遣の問題を終始指摘してきた。使用者委員は、何が起きたのか現実をしっかり見つめて考えてほしい。中小企業はつらいというので研究者などから意見を聴いてきたら、中小企業でもがんばっていいボーナスを出しているところもある。中小企業、一般でいってほしくない。ダメなところほどいつもつらいといっているといわれた。
過去に罰則の強化や企業名公表に反対してきたのに、今になって賛成するのか。しかし、企業名を公表されても労働者には利益はない。今回、部会案では派遣先に仕事がある場合をみなし雇用の適用にしている。雇用できるはずだ。
みなし雇用について「一定期間」をどう見るか。訴訟の場合の立証責任をどうするか、使用者が負うべきだ。
厚生労働省・鈴木課長 一定期間については違法が終了してから1年などを考えている。違法かどうかの判断は比較的容易だと考えている。 公益・鎌田委員 「一定期間」については、難しい問題もある。今日は資料を持ち合わせていない。次回に説明させてほしい。違法については労働者が立証せざるを得ないのではないか。
労働側・小山委員 経営側の意見を聞いていると、現在の派遣制度がいかに経営者に都合のよいものであるかがわかる。しかし、労働者にとってはどうか。派遣先の都合の良いときにしか働けない労働者の拡大が、格差の拡大に繋がった。
派遣法がつくられたときは専門業務のみだったが99年改正で原則自由化になり、それ以来、賃金が下がっている。これは、人としてではなく派遣契約という商取引の中で賃金が決まってきた結果だ。いきすぎた規制緩和をただすのが部会の役割だ。
今回の部会報告は大筋において評価するがいくつかの問題がある。製造業は原則禁止した上で、常用のみとしているが、常用型の特定派遣はここ数年で急激に増加している。本当に雇用の安定が高いのか。特定派遣でも多くで派遣切りが行われている実態があるだろう。しかも常用型派遣は届出制だ。製造業派遣を例外として認めるのであれば、実態を明らかにしておかなければならない。アンダーグラウンドも少なくないだろう。その上で、早急に許可制に切り替えていく必要がある。
厚生労働省・鈴木課長 登録型より常用型また有期より無期のほうが雇用が安定しているというデータがある。たしかに届出でできるため事業報告を出しておらず、いつの間にかなくなっているところもある。まず、事業報告の提出を求め、その上で提出しないところは無期限の事業停止などの措置とすることが考えられる。
労働側・長谷川委員 みなし雇用について。社会・労働保険を違法があった時点に遡って派遣先に請求することはできないか。
厚生労働省・鈴木課長 そもそも論として、派遣先に社会・労働保険を支払わせることの法的効果が難しい。さらに、違法があったがその後、退職し、別の企業で働いていた場合などが法制上難しい。
労働側・長谷川委員 派遣労働者、派遣先は登録か常用かをどう判断するのか。
厚生労働省・鈴木課長 派遣元から派遣先への通知も法律に組み込む。派遣労働者については、労働条件として明示する。
労働側・長谷川委員 期間制限で派遣先への雇用がみなされた場合、派遣先との契約を無期とはできないか。反復更新していた場合はどうなるのか。
厚生労働省・鈴木課長 無期とはならない。派遣元との契約と同様だ。
使用者側・市川委員 調査をすべきというのは、小山委員と同意見だ。以前、提案したが派遣元・先の責任者講習の義務付けも必要だ。許可・届出の在り方については協調して健全な派遣業界の育成に取り組みたい。中小企業を一般で…は私も同意見だ。構造的に人手が必要になる時期がある。一律に使えなくなるのが問題ということだ。
使用者側・高橋委員 派遣をめぐる今回起きたことに向き合っていないわけではない。必死に雇用維持に勤めた企業もある。原則禁止には反対だ。
みなし雇用について質問したい。派遣先は、登録型は常用型かはわかるが、労働条件はわからない。わからない労働条件で契約申し込んだとみなすことでよいのか。
マージン率の公開については、派遣契約において派遣労働者は個人情報保護法にいう「第三者」になるのではないか。知らせることに問題はないのか。
厚生労働省・鈴木課長 派遣労働者の受諾の意思表示を受けて派遣元から派遣先へ通知することが考えられる。派遣労働者は派遣元と雇用関係があるので「第三者」にはあたらないと考える。
公益・清家部会長 今回の議論をもとに必要な修正を行った上で、報告を年内にまとめ、労使の合意が得られるようにしたい。

次回は12月25日、14時から予定している。

[参考資料]⇒雇用契約申し込みみなし制度について(20091222.pdf 256KB)
[参考資料]⇒部会報告案(20091222-2.pdf 128KB)

[参考リンク]
>>日経新聞社説
>>議事録(12月22日)第141回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会議事録(厚生労働省)

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