2009年12月28日 NPO法人・派遣労働ネットワーク
「偽装請負」「日雇い派遣」「派遣切り」は、労働者派遣制度の根本的構造的矛盾が露呈したものであった。雇用とは人間の生活を支えるに足りる「安定」を本質的に要請するものであり、仕事とは誇りと社会的価値の源泉であって、人間の尊厳に値する条件のもとで営まれることを要請している。こうした社会の要請を完全に否定するかのように、使用者が雇用に対する責任を放棄し、明日の生活も見えない細切れ「雇用」と最低労働基準さえ遵守されない過酷な貧困労働を拡大し、大事にされるべき働き手を機械のパーツのように使い捨てるツールとして労働者派遣制度が利用されてきた。そうした状況から決別し、労働者保護を基本とした法制へ転換することであったはずである。
しかし、本日公表された労働政策審議会建議の内容は、そうした時代の要請・期待からすれば、きわめて問題と言わざるをえない。
第1に、旧野党共同法案を基本にするのではなく、すでに国民の支持を失っていた自民党政権のもとで政府が第170回臨時国会に提出した改正法案をベースとしており、「期間の定めのない雇用労働者については派遣先による特定を可能にする」という規制緩和が盛り込まれた。これは、雇用責任を負担しない派遣先は派遣労働者の決定権を有しないという労働者派遣制度の本質的要請を否定するものであり、これが実現されたときには、大手を振ってまかり通ってきた事前面接による派遣決定が公然と横行することを許し、「ユーザー」である派遣先の支配が格段と強化される。派遣先が、法的に雇用責任を負担しないという労働者派遣制度のうまみを享受しながら、労働者の雇用に支配力を行使し、影響を及ぼすことができるようになれば、労働者の生活と権利は、派遣先の我が儘によって翻弄され、根底から否定されてしまうことに強い懸念を抱かざるを得ない。
第2に、今回の改正に問われたものは、「雇用」の回復であり、派遣先の労働関係上の責任を格段に強化することであったが、以下の点で極めて不十分なものにとどまった。
① 派遣元の雇用責任さえかなぐり捨てた「派遣切り」の温床=登録型派遣の禁止については、「常用型」と「登録型」の区別が明確でなく、これまでの登録型を常用型と言い換えただけの責任逃れがまかり通ってしまう。
② 派遣受入範囲の再検討については、適用対象業務及び受け入れ期間制限による労働者保護に対する実効性を多面的に検証することなく、2ヶ月以内の有期雇用による派遣について大幅な例外を認めた。また、かねてから必要が指摘されていた26業務の再検討も示していない。
③ 旧野党共同法案で打ち出されていた団体交渉への応諾義務を含む派遣先の労働法上の共同責任制については、基本的に先送りして、悪質な法逸脱に対して「派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす」制度のみを導入した。しかし、その契約内容はあくまで派遣元の労働条件と同一の内容となっている。
第3に、派遣労働者の人間としての尊厳を確保するに足りる制度とすることも課題であったが、派遣元の均衡考慮の努力義務にとどまった。派遣労働者も派遣先に直接雇用されて働く労働者と同じ人間であり、派遣労働者であることを理由として差別されてはならないはずである。派遣労働が、雇用のあらゆるステージにおいて、完全な労働法上の権利を享受することができ、また待遇において差別されない権利を確立すべきである。
派遣労働ネットワークは、労働者派遣制度を四半世紀にわたって運用してきた歴史の節目にふさわしい真の法改正の実現に向け今後さらに働きかけを強める決意である。