今回は、前回示された部会報告(案)に、さらに労使の意見を踏まえて、若干文言を書き加えて提出された(下線が前回書き加えられた部分、二重下線部が今回書き加えられた部分)。
派遣労働者をめぐる雇用環境等の変化を踏まえた厚生労働大臣からの諮問を受け、当部会においては、政府として諮問内容が緊急課題であり、次期通常国会に労働者派遣法改正法案を提出することが必要であるという事情も踏まえつつ、限られた時間の中で計○回にわたり精力的な審議を行ってきた。
当部会としては、労働者派遣制度は、労働力の需給調整を図るための制度として、我が国の労働市場において一定の役割を果たしているという基本的な認識は変わらないが、その時々の派遣労働者をめぐる雇用環境の変化に応じて、制度の見直しを行うことは必要であると考えている。
そこで、昨今の労働者派遣制度を取り巻く現状をみるに、昨年来、我が国の雇用情勢が急激に悪化して、いわゆる「派遣切り」が多く発生しており、その中で、登録型派遣については、派遣元における雇用が不安定であり問題であるという指摘があったところである。また、特に製造業務派遣については、製造業が我が国の基幹産業であり、技能を継承していくためにも労働者が安定的に雇用されることが重要であると考えられるところ、昨年来のいわゆる「派遣切り」の場面においては派遣労働者の雇用の安定が図られず、製造業の技能の継承の観点からも問題であるとの指摘があったところである。
一方で、労働者派遣で働きたいという労働者のニーズが存在し、企業においても、グローバル競争が激化する中で、労働者派遣は必要不可欠な制度となっており、特に中小企業において労働者派遣による人材確保が一定の役割を果たしているという指摘があったところである。
こうした指摘も踏まえつつ、当部会としては、労働者派遣法について必要な改正を行うことが適当との結論に達したので、下記のとおり報告する。
Ⅰ.労働者派遣法の改正法案に盛り込むべき事項
政府が次期通常国会に労働者派遣法の改正法案を提出するに当たっては、昨年11月に第170回臨時国会に提出した法案(以下「20年法案」という。)の内容に、下記の各事項に示した内容を追加・変更した内容の法案とすることが適当である。
1 登録型派遣の原則禁止
(1)派遣労働者の雇用の安定を図るため、常用雇用以外の労働者派遣を禁止することが適当である。
(2)ただし、雇用の安定等の観点から問題が少ない以下のものについては、禁止の例外とすることが適当である。
①専門26業務
②産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣
③高齢者派遣
④紹介予定派遣
なお、使用者代表委員から、暫定措置を講ずる場合に、経済状況や労働者のニーズも十分に考慮に入れた上でその範囲や期間の在り方を検討すべきことに加え、そもそも登録型派遣は、短期・一時的な需給調整機能として有効に機能しており、これを原則として禁止することは労働市場に混乱をもたらすことから、妥当ではないとの意見があった。
2 製造業務派遣の原則禁止
(1)昨年来、問題が多く発生した製造業務への労働者派遣については、これを禁止することが適当である。
(2)ただし、雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については、禁止の例外とすることが適当である。
なお、使用者代表委員から、まずは真に問題がある分野を的確に見極める必要があるところ、製造業務全般への派遣を原則禁止することは、国際競争力が激化する中にあって、生産拠点の海外移転や中小企業の受注機会減少を招きかねず、極めて甚大な影響があり、ものづくり基盤の喪失のみならず労働者の雇用機会の縮減に繋がることからも反対であるとの意見があった。
3 日雇派遣の原則禁止
(1)雇用管理に欠ける形態である日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者については、労働者派遣を禁止することが適当である。
(2)この場合、20年法案と同様に、日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリズト化して認めることが適当である。
(3)なお、雇用期間のみなし規定(2か月十1日)については、就業日など、みなされた労働契約の内容が不明確である等の問題があることから、設けないこととすることが適当である。
4 均衡待遇
○派遣労働者の賃金等の待遇の確保を図るため、派遣元は、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するものとする旨の規定を設けることが適当である。
5 マージン率の情報公開
○20年法案にあるマージン率等の情報公開に加え、派遣労働者が自己の労働条件を適切に把握するとともに、良質な派遣元事業主を選択する一助とするため、派遣元は、派遣労働者の雇入れ、派遣開始及び派遣料金改定の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示しなければならないこととすることが適当である。
6 違法派遣の場合における直接雇用の促進
(1)違法派遣の場合、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるよう、派遣先が、以下の違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当である。
①禁止業務への派遣受入れ
②無許可・無届けの派遣元からの派遣受入れ
③派遣制限を超えての派遣受入れ
④いわゆる偽装請負(労働者派遣法の義務を免れることを目的として、労働者派遣契約を締結せずに派遣労働者を受け入れること)の場合 ⑤1(登録型派遣の原則禁止)に違反して、常用雇用する労働者でない者を派遣労働者として受入れ
(2)(1)の規定の履行確保のため、通常の民事訴訟等に加え、(1)によりみなされない労働契約の申込みを派遣労働者が受諾したにもかかわらず、当該派遣労働者を就労させない派遣先に対する行政の勧告制度も設けることが適当である。
なお、使用者代表委員から、仮に想定を設ける際には、派遣先の故意・重過失に起因する場合に限定した上で、違法性の要件を具体的かつ明確にする必要があることに加え、そもそも雇用契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることは、企業の採用の自由や、労働契約の合意原則を侵害することからも反対であるとの意見があった。
7 法律の名称・目的の変更
○法律の名称及び目的において「派遣労働者の保護」を明記することが適当である。
8 施行期日
○施行期日については、法改正の公布の日から6カ月以内の制令で定める日とすることが適当である。ただし、1(登録型派遣の原則禁止)及び2(製造業務派遣の原則禁止)については、改正法の公布の日から3年以内の政令で定める日とすることが適当である。
9 暫定措置等
(1)1(登録型派遣の原則禁止)に関しては、禁止にあたって派遣労働者等に与える影響が大きいため、その施行は段階的に行うべきであると考えられることから暫定措置として1(登録型派遣の原則禁止)の施行日から2年後までの間、比較的問題が少なく労働者のニーズもある業務への労働者派遣(具体的には政令で定めることとし、その内容については労働政策審議会で審議の上、決定)については、適用を猶予することが適当である。
(2)派遣元及び派遣先は、労働者派遣契約の解除に当たって、民法の規定による賠償等派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずるものとすることが適当である。
(3)政府は、労働者派遣事業の禁止に伴い、派遣就業ができなくなる派遣労働者の雇用の安定や企業の人材確保を支援するため、公共職業安定所又は職業紹介事業者の行う職業初回の充実等必要な措置を講ずるよう努めるものとすることが適当である。
その際、とりわけ中小企業においては人材確保が困難であるという指摘があったことを踏まえ、職業紹介事業が中小企業の人材確保に適したものとなるよう、特に配慮すべきである。
Ⅱ.その他の検討項目について 1 派遣先責任の強化や派遣先・派遣先労働組合への通知事項の拡大など、上記?に掲げた事項以外については、更に検討すべき問題も多数見られることから、今回の法案では措置せず、当部会において引き続き検討することが適当である。
その際、労働は派遣事業の許可・届出や派遣元責任者講習等の在り方についても、併せて当部会において検討することが適当である。
なお、労働者代表委員から、その他の検討項目とされている派遣先責任の強化や派遣先・派遣先労働組合への通知事項の拡大、及び特定労働者派遣事業の届出制から許可制への移行などについても、速やかに改正法案に盛り込んでいくべきであるとの意見があった。
また、労働者代表委員から、登録型派遣禁止の例外とされている専門26業務について、見直しの検討が必要であるとの意見があった。
2 また、上記?に掲げた事項についても、改正法案の施行後一定期間経過後に施行の状況を見ながら検討を行い、必要に応じて見直しを行うこととすることが適当である。
見直しの検討に当たっては、当部会において、特に中小企業及び中小企業で働く労働者への影響を十分把握し、これらの実態を踏まえた検討を行うことが適当である。
使用者側 秋山委員 公益側と事務局に少数意見をくみ上げていただいたことを感謝する。
今回の改正で派遣のもともとの需給調整機能が失われることを危惧する。また、この改正で派遣労働者の雇用が本当に安定するのか疑問だ。中小企業への影響も大きい。
使用者側・市川委員 派遣のイメージが大企業への派遣になっているのではないか。これは、ステレオタイプのイメージだ。私はこういった観点から、全く違う観点で申し上げてきた。
派遣労働者か見て、うまく活用してワークライフバランスを実現している例もある。こういった方々が原則禁止によって影響を受ける。
中小企業にとって派遣労働は有効に機能してきた。知名度のない中小企業は人材か確保が困難だ。在庫を持たない時代になっており、直前にならないとは発注がない。こうした場合に、派遣労働が非常に有効だ。
日本の派遣労働は外資から始まり、その後、日本企業に広がり中小企業でも活用できるようになった。派遣には、募集・採用、給与計算、マッチング機能があると申し上げてきた。中小企業にとっては大きなメリットだ。これで中小企業、特に零細企業が助かっている。大企業をイメージしたステレオタイプ的な視点だけでは足りない。
製造業は、専門職から登録型に認めていただいたことはありがたい。暫定措置で合計5年としていただいたので、この間に議論をしていきたい。中小企業、派遣労働者が困らないように取り組んでいきたい。
労働側・小山委員 今回、どうして見直すことになったのかを考えてほしい。景気が悪くなるとたちまち雇用を失ってしまう、必要が無くなればすぐにクビを切られてしまうのが派遣の本質だった。みなさんにとっては有効かもしれないが、派遣労働者にとっては未来に対する希望が持てなくなっている。改正は世論であり、派遣労働者の要望だ。
今回、まとめていただいたが、しかしまだまだ多くの問題を残している。本当の意味で将来に安心して働ける制度としていくことが日本経済にとっても必要だ。
労働側・古市委員 市川さんの団体には、派遣会社は入っているか。
使用者側・市川委員 入っている。
労働側・古市委員 業界団体に加入している派遣会社は少ない。経済団体・業界団体の方々にしっかり組織していただいて、行儀の悪い企業を指導してほしい。
労働側・古市委員 古市委員の意見には賛成だ。だからこそ、以前派遣元講習会の義務化などを盛り込んだ、パッケージ(案)を提出した。
公益側・清家部会長 今回まで9回にわたって議論してきたが、当部会としてはこれを報告としたい。
(労使委員とも意見なし)
厚生労働省・森山職業安定局長 短期間でまとめていただき、ありがとうございます。法案の提出を目指し、この報告を踏まえて、今後、年明けには法律案要綱を作成する。その際に、また議論をしていただきたい。
公益側・清家部会長 法律を履行する上でも、三者(公・労・使)構成での立法が重要だ。今回まとめられたことに感謝する。
[参考リンク]
>>朝日新聞社説
>>議事録(12月28日)第143回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会議事録(厚生労働省)