6月27日(金)に第8回目となる「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が開催されました。 今回は「需給調整機能の強化について」として3つの論点について、議論が交わされました。以下では、各論点ごとに議論の要旨をご紹介します(阿部正浩獨協大学経済学部准教授は欠席)。
需給調整機能の強化について(論点)
【論点】
1 いわゆる事前面接については、派遣先と派遣労働者のミスマッチの解消が期待できることから解禁すべきとの意見がある一方、派遣労働者の就業機会が不当に狭められるため、解禁すべきでないとの指摘があるが、どのように考えるか。
山川氏 事前面接によって明確に採用行為と見なされれば、労働者供給が成立したといえる場合があるということになるのか。なるとすれば、どのような場合か。
厚生労働省 何をもって「採用行為」とするかの判断は難しい。直ちにすべての行為が該当するわけではなく、派遣先が派遣労働者を特定する場合には、派遣先と派遣労働者の間に雇用関係が成立すると判断される蓋然性が高くなるということだ。
有田氏 実態調査では派遣労働者も事前面接を望んでいる意見が多いようだ。しかし、本来の派遣のシステムの中で派遣労働者が必要としている、あるいは知りたい情報の提供は事前面接をしなくてもできるのではないか。
山川氏 派遣元、派遣先、派遣労働者といった当事者が望んでいる。なお、禁止することの合理性は何か。マッチング機能を考えれば認めてよいのではないか。
鎌田氏 現状でも派遣労働者が望んだ場合の事業所訪問は認められているが、一般に派遣労働者が単独で派遣先に行くことはなく、派遣元と派遣先が準備して派遣労働者が派遣先に行くことになる。以前、分科会で派遣労働者にヒアリングを行ったとき、事前面接そのものは事前に派遣先を見られるので違和感はなかったが、断られたときに違和感があった、と言っていた。このように、登録型の場合は事前面接で断られると、そのまま不採用ということになるので容易に認めるべきではないだろう。しかし常用型の場合、雇用責任は派遣元にあるので認めてもよいのではないか。そうなれば、現在は努力義務となっている事前面接について、登録型については禁止していくことも必要ではないか。
また、派遣労働者の雇用の安定という意見から常用型への移行を促進することが必要で、そのための制度設計をしていくべきではないか。
山川氏 禁止するとなると先ほどの「蓋然性が高い」から、明確に違法という整理になるのか。
鎌田氏 競合で事前面接が行われるなど悪質と思われるものもある。整理する必要はあるだろう。
【論点】
2 紹介予定派遣は、どのような機能を果たしているか。また、トラブルを減らすとともに、派遣労働者の雇用の安定やキャリアアップ等の観点からより有効に活用するための方策について、どのような対応が考えられるか。さらに、紹介予定派遣の派遣可能期間の上限を延長すべきとの意見があるがどのようなメリット・デメリットが考えられるか。
鎌田氏 紹介予定派遣についてはおおむね現状で問題はないようだが、使用者側から派遣期間を1年としてほしいという意見があがっている。また、採用時の労働条件の明示がぎりぎりになるといった問題点もあげられている。私は個人的には派遣期間は現在の6カ月でよいと思う。どうしても1年でなければならない理由は見つからない。試用期間も1年は少なく、6カ月以内が多いのではないか。
山川氏 労働条件の明示については可能な限り豊富にしたほうがよいのではないか。
鎌田氏 契約社員なのか正社員なのかなど、雇用形態など基本的な明示はできるだけ早くすべきだろう。ただし、その人の働き振りをみたうえで判断したい考える派遣先もあると思う。難しいところだろう。
厚生労働省 「期間の定めの有無等」については派遣開始時に明示することになっている。
鎌田氏 それなら、きちんとやってもらう必要がありますね。
有田氏 正社員になったときの労働条件がわからないと、派遣労働者も働いていて不安になるのではないか。派遣先は事前にどのようなポストで働いてもらうかを想定しているはずなので、それらを派遣開始時に明示してもよいのではないか。
鎌田氏 たしかにそのとおりだ。しかし、派遣先としては細かい労働条件はその人の働き振りを見て決めたいという思いもあるのではないか。制約を設けると制度が利用されなくなってしまうのではないか。
有田氏 需給調整機能としての役割を期待してのこととは思うが、中途採用ならまだしも新卒で拡がっていくのはいかがなものか。本来であれば「雇用主」として発生する責任を「派遣先」になることで回避するようなことになるのではないかと危惧する。
【論点】
3 専ら派遣について、規制強化すべきとの意見がある。とりわけグループ内派遣については、コスト削減のためにやっているのではないかとの指摘があるが、専ら派遣とグループ内派遣ではどのような違いがあるか。また、これによる弊害を防止するため、どのような対応が考えられるか。
鎌田氏 指摘される問題点としては(1)特定の者のみに派遣しているいわゆる専属派遣会社は第二人事部的なものであって、労働力の需給調整を行う労働者派遣事業としては必ずしも適当とはいえない、(2)グループ内派遣は本来は直接雇用すべきものを派遣労働者として働かせているおそれがあるとともに、労働条件の切り下げにつながりかねない、の2点があげられる。
現在の専ら派遣は許可要件の中で規定しているが、グループ全体という複数になれば現在の許可要件の対象にはなってこない。今日、添付された調査結果ではグループ内に派遣している割合が80%とする派遣会社が約7割に上っている。この現状は、労働力需給調整のシステムとして適切か。定年後の雇用確保ということではなく、リストラなどによる退職者をグループ内の派遣会社で受け入れ、グループ内に派遣していくということがあるとすれば、何のためにやっているのか。新しい規制が必要ではないか。
有田氏 新しい規制を考えたときに“グループ”をどう捉えるのか。また、規制の根拠はどこに置くのか。
厚生労働省 適切化はわからないが、事務局の資料では連結決算の財務諸表で捉えた。
鎌田氏 専ら派遣は常用代替の防止をどう担保するか、という中で禁止された。このため、グループ内の派遣も専ら派遣も法的根拠は同様に常用代替の防止ということになるだろう。
有田氏 本来、正社員として雇用するところを派遣労働者とすることで安定した雇用を侵食していくことになる。規制の方法としては「○%以内」などとするのか。また、雇用調整助成金などでみられるように、人員の整理などの場合はグループ内での雇用の確保は常識になっているが、どう規制すべきか。派遣会社が新たにグループ外から受け入れた人とグループ内にいた人の割合ということになるのか。
山川氏 定年退職者の雇用をグループ内で確保していくということは問題ないだろう。しかし、濫用とされるような解雇をして派遣労働者にするのは明らかにおかしい。
有田氏 整理解雇の場合の雇用確保措置に、グループ内で派遣労働者となることを認めるのか、議論が必要だ。
なお、次回は、7月4日(金)に開催を予定している。
[参考リンク]⇒第8回 今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 配付資料(厚生労働省)
[参考リンク]⇒第8回 今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 議事録(厚生労働省)