7月4日(金)に第9回目となる「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が開催されました。 今回は「優良な事業主を育て違法な事業主を淘汰するための仕組みについて」として3つ(細かくは4つ)の論点について、議論が交わされました。以下では、各論点ごとに議論の要旨をご紹介します。
優良な事業主を育て違法な事業主を淘汰するための仕組みについて(論点)
【論点】
1 違法な派遣の防止・是正について
(1)違法派遣の場合において、その是正を図りつつ、派遣労働者の保護にも資する手法として、派遣先に雇用契約申込み義務を行わせることや、「みなし雇用」を導入することが考えられるが、その対象となる範囲や労働条件の設定を含め、どのように考えるか。
鎌田氏 見なし雇用制度は、派遣先が違反した場合、または派遣元が違反した場合に派遣先との雇用が成立したと見なす制度で、違法状態の是正が期待される。
有田氏 違法状態の是正だけでなく、違法の抑止効果も期待できる。
山川氏 確かにその通りだが「位置づけ」と「効果」の2つの問題がある。位置づけは理解したが効果が難しい。損害賠償責任としての効果なら、検討の余地があるのではないか。
鎌田氏 「民事的な効果」と「行政上の措置」のどちらにするか、労働条件はどうするか、といった問題がある。
阿部氏 就労条件の明示を行ったことによる指導なども多い。これらの違法に対する措置も併せて考えたほうがいいのではないか。指導段階で公表すれば、指導件数の多い企業に人が集まらなくなり、優良な事業所の育成に資するのではないか。
橋本氏 違法な派遣を行ったときは、派遣元と派遣労働者の雇用関係はなくなるということになるのか。現行法でも事業停止の措置があるので、その考え方もできないことはないと思うが。
有田氏 派遣法に違反した派遣が労働者供給事業に当たるということであれば、見なし雇用も考えられる。その場合、違反の悪質類型などを整理する必要があり、そのためには定義そのものを見直す必要もある。
厚生労働省 技術的にできないことはないが、やるとなると職安法に指導項目を加えるなども必要になる。派遣法の中で措置することが望ましいと考える。
鎌田氏 見なし雇用を求める意見が出てきた背景には、派遣先に対する罰則が二次的であることも影響しているのではないか。違法の際の派遣先の罰をもう少し厳密にし、派遣先の責任を重くする制度を考えるべきではないか。
悪質類型について、見なし雇用を認める場合の派遣先の帰責性、主体的な関与をどうとらえるか。
有田氏 主体的関与の判断については、現行の区分基準を省令に引き上げるなども必要ではないか。
厚生労働省 今回の資料で「雇用契約申込み等の方法の差異」として、(1)派遣先と派遣労働者との間の雇用関係が成立したものとみなす、(2)派遣先は、派遣労働者に対し、雇用契約の申込みをしたものとみなす、(3)(行政は、)派遣先に対し、派遣労働者に対する雇用契約の申込みをすべき旨を勧告することができる、の3つを挙げた。(1)(2)は難しいが(3)なら可能ではないか。
鎌田氏 この場合、派遣就業のときの労働条件を下回らないとすることは可能か。
厚生労働省 可能だ。
有田氏 見なし雇用は、現行の直接雇用の申込み義務に変わるものとして考えているのか、それとも新たに付け加えるのか。
厚生労働省 直接雇用の申込み義務とは性質が異なる。新たに付け加えることになるだろう。
阿部氏 議論を聞いていると、労働者供給事業で違法と整理したほうがキレイだと思うが…。
有田氏 職業安定法44条で労働者供給事業を禁止している意図をどう考えるかによって違ってくるところだろう。
以前、山川先生が見なし雇用を「損害賠償の前提となる債務」とする意見を言われたが、こうしたことも考えてよいのではないか。
鎌田氏 「(1)派遣先と派遣労働者との間の雇用関係が成立したものとみなす」は、派遣労働者が知らないところで労働契約が成立してしまうことになりいかがなものか、「(2)派遣先は、派遣労働者に対し、雇用契約の申込みをしたものとみなす」は、偽装請負の場合は違法を知りながら実行していたという主体的な意図のない場合に適用するのは問題だが、これを立証するのは大変だろう、「(3)(行政は、)派遣先に対し、派遣労働者に対する雇用契約の申込みをすべき旨を勧告することができる」は、行政がどう考えるかを整理すれば工夫のしようもある。どういう整理が可能か事務局(厚生労働省)は整理して示してほしい。
(2) 現行では、違法派遣の是正のための派遣先に対する措置として、勧告・公表の規定が設けられている。違法派遣の防止・是正をさらに実効あるものとするため、特に派遣先に対する制裁措置の強化を含め、どのような対応が考えられるか。
有田氏 単発では是正されていても、違反を繰り返す企業について公表してよいのではないか。初回は指導でも2回目以降(何度目になるかは検討が必要だが)公表していくことで違法な事業主を淘汰することができるのではないか。
橋本氏 派遣元に対してはいいが、派遣先に対して工夫が必要だ。
2 今般の派遣も指針の改正により、派遣元事業主は、派遣労働者及び派遣先が良質な派遣元事業主を適切に選択できるよう、派遣料金の額や派遣労働者の賃金の額に関する情報を公開することとしているが、これに加え、どのような対応が考えられるか。(第7回研究会資料1の再掲)
鎌田氏 改正パート法でも労働条件の明示が義務化されている。同様の労働条件の明示義務を設けることを検討すべきだろう。
有田氏 契約時にマージンを開示して説明するなども必要ではないか。
阿部氏 「○年前に○○違反」などを公表することも考えてよいのではないか。これは今からでもできると思うので、もっと見やすくして公開してほしい。
3 その他労働者派遣事業の適正な運営及び適正な派遣就業の確保を図るため、どのような対応が考えられるか。特に(1)法令遵守を徹底するため、その内容等について周知・説明を行わせること、(2)欠格事由、許可基準の在り方、(3)労働者派遣事業適正運営協力員制度の在り方について、どのように考えるか。
有田氏 派遣労働者が違法な状態に置かれたときにどこに行けばいいのかを示すことが必要で、これを周知項目に入れる必要があるだろう。また、労働者派遣事業適正運営協力員制度を知らない派遣労働者も多いのではないか。
厚生労働省 労働者派遣事業適正運営協力員制度については、ポスターを作製するなどして周知している。
議論の最後に鎌田座長から「派遣と請負の区分基準の一層の透明化に関する要望もあった。この研究会では、できないが今後議論をしていく必要がある」といった意見が出されました。
今回で、これまで検討事項として挙げられていた項目は終了。次回以降で、これまでの議論を踏まえ、研究会が7月中にとりまとめを予定している報告書の内容に関する議論になると考えられます。
次回は、7月11日(金)に開催を予定しています。
[参考リンク]⇒第9回 今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 配付資料(厚生労働省)
[参考リンク]⇒第9回 今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 議事録(厚生労働省)